定番クロスバイク2台を比較する
対照的な2台のクロスバイクがやってきました。GIANT(ジャイアント)の「ESCAPE R3」と、BRIDGESTONE(ブリヂストン)の「CYLVA F24」です。
ESCAPE R3と言えば、コンパクトな乗車姿勢の軽いフレームと細いタイヤが生み出す、スポーティーな走りが魅力。定番クロスバイクんひとつであり、スポーツサイクルの世界への「入り口」として人気です。
一方のCYLVA F24は少々ゆったりめのフレームや、ESCAPE R3よりは太めのタイヤを採用していて、安心感を重視したタイプのクロスバイク。しかし、これもまたクロスバイクの定番スタイルと言えるもの。
さらに、ESCAPE R3がスポーツバイク専門店中心の取り扱いなのに対して、CYLVAは街の自転車屋さんで販売されていることが多いクロスバイクです。
このように、個性も販路も異なる2台のクロスバイクを、比較試乗してみました。
フルモデルチェンジでさらに軽くなったESCAPE R3
2004年に初代モデルが登場した、ESCAPE R3。それまでのクロスバイクが、MTB(マウンテンバイク)由来のフレームにロードバイクと同じ径のホイールを採用し「MTBとロードバイクのいいとこ取り」などと言われていたところに、ロードバイクのようにコンパクトで軽量なフレームや、それまでのクロスバイクよりも大胆に細いタイヤを採用して登場し、一気に人気モデルとなりました。
2015年モデルでフルモデルチェンジを果たしていますが、従来モデルが持っていたチャームポイントはすべて受け継ぎながら、より軽やかなクロスバイクへと進化しています。
ESCAPE R3のフレームとフロントフォークは、ロードバイクのエントリーグレードと張り合えるほど軽量なもの。そして、ハンドルの位置が手前かつ高めに設定できるように作られているのが特徴です。それまでシティサイクルしか乗ったことがなかった人であっても、すんなりと乗りこなせるように配慮されているのです。
そして、ESCAPE R3といえば700×28Cというサイズのタイヤ。ホイールの径はロードバイクと同じで、太さは28mm。これは、一般的なクロスバイク(700×32〜35C)とロードバイク(700×23〜25C)の中間的なサイズです。
ESCAPE R3の漕ぎ出しの軽さと流す楽しさはピカイチ
ストップ・アンド・ゴーが多い街中から川沿いのサイクリングロードを含むコースで、ESCAPE R3を試乗しました。またがって最初のひと漕ぎから——やっぱり軽い! 従来モデルやESCAPE Airの軽さを知っている筆者でも「おお、なかなかいいじゃない」と思える軽さを感じます。そして、700×28Cのタイヤが音も立てずにアスファルトをなぞり、スムーズなシティライドを楽しめるのです。
路地が多いコースなので、一時停止を頻繁にしなくてはなりません。しかし、車体が軽量で漕ぎ出しも軽いESCAPE R3では、一時停止後の再スタートもスッと前に出てくれます。ここで忘れてはならないのが、現行のESCAPE R3は変速パーツの多くがシマノ製になっていること。かつてのESCAPE R3に使われていたスラム製パーツも、日常的に使う上で問題はありませんでした。しかし操作したときの質感という面では、やはりシマノに軍配が上がります。
そして川沿いのサイクリングロードに出れば、ESCAPE R3の軽やかさをよりいっそう楽しむことができます。この価格帯のクロスバイクとしては良く加速し、そしてクルージングを楽しむことができました。前3段×後8段の24段変速も、実用上十分だと感じます。
一方で、ESCAPE R3のチャームポイントは、裏を返すと弱点となって現れることがあります。フレームやフロントフォーク自体は衝撃吸収を考えた構造ですし、舗装路を走っている限りは乗り心地の良い自転車です。しかし、川沿いのサイクリングロードを走っていると出くわす荒れた路面や、舗装が途切れて砂利道になったところでは、路面からの衝撃を少々きつめに感じることになるのです。これは、タイヤがクロスバイクとしては細いもので、空気圧が高めに設定されていることによります。
そしてもうひとつ気になったのが、ブレーキです。ESCAPE R3は伝統的に、ショートアームと呼ばれる、その名のとおりアームが短いタイプのVブレーキを採用しています。
ショートアームのVブレーキは、通常のロングアームよりも制動力が低めです。制動力が低めと言っても効かないわけではなく、通常の使用では問題ありません。あえて制動力を少し落として、ブレーキがガツンと効きすぎて転倒することを防ぐ意味合いがあります。ただ、ESCAPE R3に使用されているテクトロというメーカーのショートアームVブレーキは、シマノ製と比べてしまうと若干フィーリングに劣る感は否めません。
全方位の性能を追求したCYLVA F24
BRIDGESTONE(以下「ブリヂストン」)のCYLVA F24は、GIANT ESCAPE R3とは対照的なクロスバイクと言えるかもしれません。
ブリヂストンのラインナップに「GREENLABEL(グリーンレーベル)」という、カジュアルでちょっとスポーティな自転車を括ったラインがあるのですが、CYLVAはその中心的なブランドで、クロスバイクをメインにいくつかのモデルが用意されています。その中でこのF24は、フラットハンドルと前3段×後8段の24段変速を備える、まさに「ど真ん中」と言える存在です。
CYLVA F24は、その車体構成もクロスバイクの王道的なものです。しっかりとしたアルミフレームと、スチール製のフロントフォークを採用。乗車姿勢はややゆったりしたもので、ホイールベース(前後の車輪の距離)も長めに取られています。
そして装着されるタイヤは700×32Cというサイズで、クロスバイクとしては一般的なもの。700×28CのESCAPE R3よりは、ちょっと太め。このタイヤはブリヂストンのオリジナルで、パンクしにくい内部構造となっているのも特徴です。
また、CYLVAはシリーズを通してサドルにも凝っていて、座圧測定システムを用いて開発し、漕いだ時に太ももが擦れにくい細身の形状でありながら、座り心地にも優れています。
重さを感じさせない軽い走行感が魅力のCYLVA F24
さっそく、CYLVA F24にまたがって——とその前に、まずはちょっと押し歩きをしてみました。すると不思議なことに、思ったよりも重さを感じません。というのも、CYLVA F24は、ESCAPE R3よりも2kgほど重たい自転車なのです。もちろん持ち上げればその重量差を感じますが、押し歩いている分にはまったく気になりません。これは、自転車としてのバランスに優れている証拠です。
実際に漕ぎ出してみても、その印象は変わりません。適切なギアさえ選んでおけば最初の漕ぎ出しから軽やかだし、しっかり加速していきます。ESCAPE R3と比べてしまうと確かに重たいのでしょうが、適度にスピードを上げてクルージングしている分には快適そのものです。
安定感、安心感の高さは、CYLVA F24の良いところでしょう。長めに取られたホイールベースのおかげで、交差点を曲がるときやカーブを通過するときでも、フラつきにくい印象があります。そしてタイヤの太さがしっかり確保されているので、多少路面が荒れていても、手にゴツゴツとした振動が伝わりにくくなっています。タイヤが太くて空気量が多いことが功を奏しています。
そしてこのCYLVA F24の良さとして強調しておきたいのが、「使い心地の良さ」です。決して高級品ではないのに、安っぽさを感じないのです。グリップやサドルなど身体に触れるパーツの質感は高いですし、変速パーツもシマノ製で統一されています。
とくにブレーキもシマノ製となっているのは大きなポイント。コストダウンを図る場合(ESCAPE R3がそうであるように)、だいたいはブレーキをシマノ製以外の廉価品にします。しかしCYLVA F24では、そのようなことがありません。街中のストップ・アンド・ゴーでもカッチリとした効きを実感することができます。
ブレーキが効きすぎてしまうことへの対策としては、フロントブレーキに「パワーモジュレーター」というパーツを組み込んでいます。これは、ブレーキの「立ち上がり」をあえて弱めて、ロックしにくくするものです。
弱点はなんといっても「地味」な点ではないでしょうか。全方位的にしっかりと、押さえるべきポイントはすべて押さえてあり、乗りやすく、使いやすく、各部の質感も高い。しかも、ライト、スタンド、ワイヤー錠が最初から付いてしっかり5万円台におさめているのはさすがです。ただ、あまりに優等生的である一方で「CYLVA F24と言えばココが最高!」といった、目立ったところがありません。
今回テストした車体の「T.BマットBSレッド」というカラーは、とても鮮やかで個性があり好印象ではありましたが、デザイン面でも、もうひと工夫欲しいところです。今回の比較対象であるESCAPE R3は、見るからに軽そうで速そうなクロスバイクであり、実際にまたがってみると、その期待を裏切らない性能を見せてくれます。対してCYLVA F24は、いいヤツそうだし、実際いいヤツなのですが、それはある程度付き合ってみないと実感できないことかもしれません。
ひと目見てわかる(期待させる)性能が、CYLVA F24にも欲しいところです。
どちらのキャラクターに魅力を感じますか?
少し乱暴にまとめると、GIANT ESCAPE R3には、初めて乗る人にスポーツサイクルの感動を与える、圧倒的な「走りの軽さ」があります。そして、クロスバイクとしてはエッジの立った性能でありながら、毎日の暮らしに溶け込める稀有なキャラクターの持ち主です。だからこそ、10年以上に渡って絶大な支持を得てきたのでしょう。
一方のCYLVA F24は、真面目、真摯、真っ当を絵に描いたようなクロスバイクです。際立った個性は持っていないかもしれませんが、安心・信頼して身を任せ、毎日の行動を共にできる、いいヤツであることは間違いありません。
また、冒頭にも書いたようにESCAPE R3とCYLVA F24では販路が異なります。スポーツサイクルの専門店か、街の自転車屋さんか——というのも選択のポイントです。
価格はどちらも5万円台ですし、どちらを買っても損はしないでしょう。しかし、明確に両者は異なるクロスバイクです。あなたならどちらを選びますか?
今回試乗したクロスバイクについて
●GIANT ESCAPE R3
価格:55,000円(税別)
フレーム:アルミ
フォーク:クロモリ
コンポーネント:シマノ・アルタス
変速段数:3×8
前ギア:48/38/28T
後ろギア:11-32T(8S)
タイヤ:700×28C
重量:10.2kg(465mmサイズ)
製品情報 http://www.giant.co.jp/giant16/bike_datail.php?p_id=00000060
●BRIDGESTONE CYLVA F24
価格:55,800円(税別)
フレーム:アルミ
フォーク:スチール
コンポーネント:シマノ・アルタス
変速段数:3×8
前ギア:48/38/28T
後ろギア:11-32T(8S)
タイヤ:700×32C
重量:12.5kg(480mmサイズ)
製品情報 http://www.bscycle.co.jp/greenlabel/cylva/f24.html?c=0
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(Gen SUGAI)
須貝 弦(すがい・げん):1975年東京都新宿区生まれ、川崎市麻生区在住。雑誌原稿の編集・取材・執筆の他、企業Webサイトやオフィシャルブログの制作にも携わる。自転車と小田急ロマンスカーが好き。初めてのスポーツ自転車は1986年あたりのアラヤ・マディフォックス。2001年頃にGTのクロスバイクで数年ぶりにスポーツ自転車に復帰。現在のメインの愛車はアルミのロードバイク「TREK Domane AL3 DISC」。
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