先日、毎日新聞のWebサイトで「折りたたみMTBのフレームが走行中に折れて裁判になっている」ということが報道されていました。
訴えによると、自転車は東大阪市のメーカー「ビーズ」が製造・販売し、「ドッペルギャンガー」のブランド名で展開する折り畳み式のマウンテンバイク。中国で製造された。
男性は、事故の約7カ月前にインターネット通販で約2万2000円で購入。自宅近くを走っていたところ、前輪と後輪をつなぐアルミ合金製のフレームが突然折れて転んだ。顔を地面に強打し、8本の歯が折れたり、欠けたりした。
引用元: 自転車:走行中突然ボキッ 転倒し重傷 訴訟に – 毎日新聞.
記事によりますと、国民生活センターのテストによって他の同型品も破損をしており、製品欠陥の可能性が指摘されています。また、「ドッペルギャンガー」ブランドの自転車を販売しているビーズ社は、『製品に問題があったことを認める一方、治療費などの賠償額を争う姿勢を示している』とのことです。
毎日新聞の取材に対してビーズ社は『製品の回収は考えていないが、事故がないか注視し、個別に対応したい』とも答えているようです。
実際に破損事故が発生してからこのように明るみに出るまで1年半以上がかかっていますが、まずは自転車に乗られていた男性の怪我が命に関わるものではなかった点は、不幸中の幸いであると言えるでしょう。
さて、ビーズ社は製品の問題を認めつつ金額を争う姿勢を示しており、と言いますかそれ以前に、この案件は裁判になっています。ここでちょっとPL法について調べてみました。
まず、ビーズ社は「ドッペルギャンガー」Webサイトにおいて、PL保険に加入している旨を表記しています。これを覚えておきましょう。
また、全ての製品は「万が一」に備え、PL保険へ加入しています。
引用元: DOPPELGANGER® 製品サポート情報 FAQ : 自転車の安全対策について.
おそらく、今回問題になっている製品もPL保険には加入しているものと思われます。
通称PL法、製造物責任法というのがあることは皆さんご存知でしょう。
製造した製品に欠陥等があって人がケガをしたり命に関わることがあった場合、製造業者等が賠償責任を負うことを定めた法律です。
まず、この法律の対象となる製造物は「動産」です。したがって自転車は含まれます。
次に「製造業者等」って具体的に誰か。
製造業者=当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者
表示製造業者=自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号、商標その他の表示(以下「氏名等の表示」という。)をした者又は当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者
実質的製造業者=前号に掲げる者のほか、当該製造物の製造、加工、輸入又は販売に係る形態その他の事情からみて、当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者
なんか難しいですが、これはつまり、いわゆる工場で実際に製品を作った企業だけではなく、輸入した業者も「製造業者」に入るし、ブランドの名前貸しやプライベートブランドで実際には製品を作ってなくても、消費者がメーカーだと認識しうる状況なら「表示製造業者」だし、その他もろもろの形態でも実質的に「要するにあなたが製造業者ですよね?=実質的製造業者」となったりするということです。
ビーズ社の場合、中国の自転車メーカーに作らせて自社ブランドで販売しているので、少なくとも「表示製造業者」には該当します。
では製品の欠陥を証明するのは誰か。これは被害者側に証明責任があります。ここはひとつ障壁ですが、国民生活センターでは相談窓口やADR(裁判外紛争解決手続)を用意していますから、これを頼るのが現実的です。今回の件でも、国民生活センターが試験をしているようです。
さて。
日本の「A社」という会社が自社ブランドで販売し、実際の製造は中国の「B社」で行なわれている自転車に乗っているたかし君、ある日ふつうに舗装路を走っているだけでフレームが破断し前転、顔着して大怪我をした……と仮定します。調査の結果、自転車に製造上の不備があることもわかりました。このとき、たかし君は誰に賠償を求めることができるでしょうか。
たかし君は、A社に賠償を求めます。A社は「表示製造業者」であり、製造物に対する法的な責任を有しているからです。
でも実際に作ったのはB社。QCまでB社に丸投げということも考えられます。そんなときどうするか。
いったん、A社がたかし君に賠償します。そしてのちに、A社がB社に賠償を求めるのです。
ただし、仮にB社が倒産していた場合、A社はB社に賠償を求めたくても、求めようがありません。
製造物責任法による賠償は企業にとってみればリスクです。そこで保険の登場。損保会社がいわゆる「PL保険」を用意しています。PL保険に加入しておくと、製造業者等に故意の過失や虚偽表示等がなければ、賠償やリコールによって生じた費用をある程度カバーすることができます。
例を挙げておきます。『保険金をお支払いできない主な場合』というのも参考になります。
生産物賠償責任保険 | 賠償責任の保険 | 東京海上日動火災保険.
もしA社がPL保険に加入しており、A社に故意による過失や虚偽表示等々の問題が無ければ、A社はたかしくんに賠償金を支払った後、損保会社から保険金の支払いを受けることができます。そして、実際には自転車を製造したB社にも責任があるわけですから、保険金を支払った損保会社はB社に賠償を求めることになります。
文字ばかりの説明でうんざりされたかもしれませんし、私も以前別のメーカーの破損事故が話題になったときに調べた程度の知識なので、これ以上の理解はできていません。もし間違いがあったらご指摘いただければ幸いです。
で。
先の毎日新聞の報道によれば、国民生活センターの試験により製品に問題があると考えられ、なおかつ、ビーズ社は毎日新聞社によれば『製品に問題があったことを認める一方、治療費などの賠償額を争う姿勢を示している』とのことです。
これが、単に(といったら大怪我をされた方にはたいへん失礼ではありますが)金額を争っているのか、別の背景があるのかがわかりません。また、なぜ『製品の回収は考えていないが、事故がないか注視し、個別に対応したい』という状況になっているのかもわかりかねます。ビーズ社に故意の過失等が無ければ、製品回収費用はPL保険で賄われるものと考えますが、どうでしょうか。
この件、続報があるのかどうか。注目して見守りたいと思います。
また、今回の一件で「やっぱり中国製は……」という声も聞かれますが、中国製でもちゃんとQCされたものはあります。そのへんは十把一絡げに考えないほうが良いでしょう。ただ、明らかに「これ安すぎるだろう」というものに関しては、生産国に関わらず注意した方が良いのではないでしょうか。
追記:ビーズ社は今回報道された件について下記の通りリリースを出しています。
一部報道機関より、当社製自転車(製品名703)に乗車走行中にフレームが折れ、消費者が転倒し重症を負われた旨の報道(以下、報道)がございました。報道の内容は事実に基づくものでございます。本件についてご心配をおかけし、多くの方よりお問い合わせを頂戴しております。つきましては現在およびこれまでの経過など、当社見解について下記のとおりご連絡申しあげます。
引用元: ビーズ株式会社当社製品に関する一部報道について.
これによれば、製品起因であることに異議はないがロットまたは製品全体の問題とは考えておらず、補償内容については調整をしている……という立場のようです。
(Gen SUGAI)
須貝 弦(すがい・げん):1975年東京都新宿区生まれ、川崎市麻生区在住。雑誌原稿の編集・取材・執筆の他、企業Webサイトやオフィシャルブログの制作にも携わる。自転車と小田急ロマンスカーが好き。初めてのスポーツ自転車は1986年あたりのアラヤ・マディフォックス。2001年頃にGTのクロスバイクで数年ぶりにスポーツ自転車に復帰。現在のメインの愛車はアルミのロードバイク「TREK Domane AL3 DISC」。
ピンバック: 「ドッペルギャンガー 703」がヤフオクで出品禁止に | CyclingEX