イタリアのチューブメーカー「COLUMBUS」が、2019年で創業100周年を迎えました。そして、100周年を記念して生産される限定チューブ「CENTO」が、CHERUBIM/今野製作所に到着。チーフビルダーの今野真一さんに、COLUMBUSのこと、そしてCENTOについてお話を伺います。
COLUMBUSはあこがれのチューブメーカー
今回はCOLUMBUS(コロンブス)の100周年記念チューブ「CENTO(チェント)」がCHERUBIMに届いたとのことで、こうして押しかけて現物を見せていただいているわけですが、そもそも今野さんにとってのCOLUMBUSのチューブとはどのようなものなのでしょうか。
「COLUMBUSは、ひと言で現せば“あこがれ”でしょうか。私の父親(今野仁さん)の世代は価格の高さもあって、とくに舶来物へのあこがれが強かったと思うのですが、その点は我々も同じようなものではないかと思います。日本のチューブが悪いということはないのですが、COLUMBUSやREYNOLDS(レイノルズ)のような海外製チューブは、やはりあこがれなんです」(今野さん)
乗り手のニーズに合わせたチューブを送り出すCOLUMBUS
そして、COLUMBUSのチューブは単にあこがれの存在というだけではなく、他メーカーのチューブにはない特徴があると今野さんは話します。
「COLUMBUSは、メーカー自らが各チューブのターゲットを明確に決めて開発していると言えます。そして、どの時代も“レーシング”にこだわっているというイメージがありますね。他のメーカーだと、意外とそのチューブが何用なのかは明確にされていないことがあるのですが、COLUMBUSの場合はケイリン、ピスト、ロード、マウンテンバイク用といったように、はっきりしています」
COLUMBUSの特徴は、各チューブのコンセプトだけではなく構造にも表れています。例えば、チューブで力のかかる部分は肉厚に、力があまりかからないところは肉薄にする、バテッド加工。
「チューブのサイズによって、バテッドの距離がちゃんと変えてあります。ふつうは、チューブが長くなると、肉薄の部分は長さがそのままで、肉厚のところが長くなっていることが多いんです。しかしCOLUMBUSは、チューブの長さに応じてちゃんとバテッドの位置を変えて最適化してある。これにより、大きなサイズでも軽く作ることができます。こういったことにいち早く取り組んだ点は、賞賛すべき思います」
しかもCOLUMBUSは、ビルダーからの特注にも応えるのだと言います。また、今回紹介する同社100周年記念のチューブ・CENTOも、ユーザーのジオメトリーに応じてチューブがカスタマイズされているのが大きな特徴です。
スチールが主流ではない時代も乗り越えて100周年
COLUMBUSが創業したのは、1919年のこと。この2019年は同社とって100周年という、大きな節目です。そして100周年を記念して発表されたチューブセットが「CENTO」。2019年いっぱいの受注で、全世界で限定500セットの生産です。
今までにさまざまな素材を扱ってきたCOLUMBUSですが、その100周年を記念する製品は、スチールチューブでした。
「100年の中で、いろいろな時期があったはずです。アルミチューブが名を馳せた時代もありますし、カーボンのチューブセットやフォークも手がけてきた。スチールが主力ではない時代も長かったのではないでしょうか。しかしCOLUMBUSがスチールをやめることはありませんでしたし、今でもイタリアでチューブの生産を続けています。今回スチールのCENTOが発売されたのも、スチールのCOLUMBUSの原点であり、スチールこそ自転車に適した素材だという姿勢の表れだと考えています」
また、ただスチールを作り続けてきたというだけではないCOLUMBUSの姿勢について、今野さんは次のように話します。
「いつの時代でも、サイズオーダーの必要性を認識しているチューブメーカーであり、そしてビルダーの声を聞いてきたチューブメーカーだと思います。COLUMBUSもチューブだけでなくフレームを製造していて、もっとそちらに注力してもおかしくないところを、そうはしなかったわけです。また、とくにこの10年くらいは、日本のビルダーの声にも耳を傾けてくれるようになりました。NAHBS(ナーブス、North American Handmade Bicycle Show)に日本人が多く参加するようになったことも、理由のひとつでしょう」
最先端スチール「オムニクロム」を使用した100周年記念チューブ・CENTO
さて、ここからはいよいよ、COLUMBUSの100周年記念チューブ・CENTOについて見ていきましょう。今回は、ケルビムに届いたばかりの現物を見せていただくことができました。
このCENTO、ケルビムでは「CENTO-RACER」というモデルとして発売されます。まずショップにてユーザーの採寸を行なったのち、最適なチューブの長さおよびバテッド位置を決定してからCOLUMBUS社に発注される、特別なチューブセットです。
「このCENTOは、クロモリの中でもオムニクロムという最新の素材が用いられています。オムニクロムは、溶接の際に熱の影響を受けにくいのが特徴です。チューブを扱うということは熱の影響との戦いでもあるのですが、オムニクロムは1,300℃くらいまで温度が上昇しても、弱くなりません。従来のチューブはその上限が1,000℃くらいです。現在は(ロウ付けではなく)高温になるTIG溶接が多く用いられるので、時代の流れに沿っていると言えます」
スチールフレームは、決して過去の存在ではない——そんなCOLUMBUSの主張も、CENTOからは見て取れます。
「大径チューブであることも特徴ですが、これは流行を追っている面もあるかと思います。最近のカーボンフレームからロードバイクに入った人は、これくらいの太さがないと違和感を覚えるケースもあるようです。ヘッドチューブは、テーパー形状のカーボンフォークに対応しています。こういったチューブで作られたフレームを“モダンスチール”と呼ぶのでしょう。このチューブで作るバイクは、剛性が高いものになります」
100周年記念チューブであることを誇るように、COLUMBUSやCENTOのロゴが各所に入っているのもポイントですが、とくにCOLUMBUSのロゴに関しては現行のものではなく、クラシックロゴが使われています。
また、ボトルケージ台座ダボの外径はCOLUMBUSのロゴマークを再現していたり、シートチューブのスリーブはレーザーカットでおなじみの鳩が象られていたりと、随所に遊び心が散りばめられています。
そんなCENTOも9月に入ってようやく、最初にオーダーされたチューブがケルビムをはじめ各ビルダーのもとに届き始めたところです。
「CENTO-RACERをオーダーしたいけれど、さすがにチューブすら目にしていない状態では躊躇してしまうという方もいるかと思います。ですから“サイクルモード2019(サイクルモードインターナショナル2019)”に間に合うように、これからデモバイクを製作します」
そう話す、今野さん。CENTOのチューブは年内もしくは限定500セットに達するまでの生産とのことなので(これでも当初の予定より増やしたそう)、まさに時間との戦いと言えるかもしれません。
幸いなことに、チューブセットそのものはケルビムにあるので、完成した状態のフレームはなくとも、ある程度仕上がりをイメージすることは可能です。また、わずかながらストックのチューブセットも確保したとのこと。CENTO、そしてCENTO-RACERに興味がある人は、CHERUBIM/今野製作所に問い合わせてみてください。
●CHERUBIM/今野製作所
Webサイト http://www.cherubim.jp
Facebookページ https://www.facebook.com/CHERUBIM.japan/
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(Gen SUGAI)
須貝 弦(すがい・げん):1975年東京都新宿区生まれ、川崎市麻生区在住。雑誌原稿の編集・取材・執筆の他、企業Webサイトやオフィシャルブログの制作にも携わる。自転車と小田急ロマンスカーが好き。初めてのスポーツ自転車は1986年あたりのアラヤ・マディフォックス。2001年頃にGTのクロスバイクで数年ぶりにスポーツ自転車に復帰。現在のメインの愛車はアルミのロードバイク「TREK Domane AL3 DISC」。