ロードバイクのパーツやアクセサリーを海外通販サイト「Wiggle」で買うなんてことは、もはや多くの人にとって当たり前の購買行為ではないでしょうか。
Twitterのタイムラインを眺めていれば、毎日どこかで「着弾」している。
ホイールのような比較的大きなものから、ステムやペダルなどの比較的小さなパーツ、ヘッドライトのようにどこの自転車店でも売っているものでも、海外通販サイトを通じて購入する人が増えています。
もちろん、日本にも通販サイトはいくつもあります。通販をメインにしている販売店はもちろんのこと、Amazonも重要な存在です。
●通販があってよかったと思うとき
通販のメリットはなんでしょうか。
とくに海外通販ですと安さばかりが注目されがちですが、それだけではありません。
自宅だろうが電車の中だろうが、ネットにつながれば「その場でポチれる」のが大きな魅力であることは間違いありません。
実は私、自転車に関するものを海外通販で購入したことはないのですが、そのかわりAmazonは結構利用しています。
2015年のゴールデンウィーク中に、ヘルメットを落下させてしまいました。買って1年と数日のヘルメットは一瞬にして、使えないものに……。しかも壊したは、火曜日の夜遅く。翌日は水曜日なので、なじみの自転車店はやっていません。都会まで出れば水曜日もやっているけれど、ほしいものが確実に在庫しているかも、わからない。
ところが、火曜日のうちにAmazonを見たら、あるのです。欲しいと思っていた、ヘルメットが。
いちばん欲しいカラーはありませんでしたが、それでも「いいじゃん」と思えるカラーがありました。以前に試着したことがあったので、サイズ感もわかっています。お急ぎ便を使わなくったって、翌々日には届きます。注文しない理由がありませんでした。
輪行袋も、ほしいときに意外とリアル店舗には在庫していないもののひとつです。あるとき、他の人に使ってもらう分まで複数の輪行袋とエンド金具を購入する必要が生じ、やはりAmazonのお世話になりました。在庫僅少だったのですが、なんと関東と関西、ふたつの物流センターから届きました。
●なぜか悪者のように扱われるユーザー
通販が支持されるには理由があります。安いとか、いつでも買えて、すぐ来るとか。「ショップに行く必要がない」という点に魅力を感じている人もいるでしょう。
支持されるには理由があるけれど、それでも自転車業界(輪界)の側からは通販を利用するユーザーが悪く言われることがあります。
もちろん、その理由もわからなくはありません。
海外の通販業者は、日本における流通やマーケティング、サポートなどのコストを負担しているわけではありません。しかし、海外通販で購入して、地元の販売店に使い方を聞きに行くとか、日本の代理店にサポートを要求するといったユーザーが多いと聞きます。
先ほど私がAmazonでヘルメットを買った話の中で「以前に試着したことがあったので」と書きましたが、つまり私はとあるショップで試着してAmazonで買うという「ショールーミング」を行い、試着したお店には1円も落としていないのは事実です。
国内外を問わず完成車の通販を行なっているところはたくさんあります。キャニオンなどもはや珍しい存在ではありません。
しかしスポーツ車、一般車を問わず、中には組み立て状態(もしくはそれ以前の品質)がひどい事業者も存在します。また、モノがちゃんとしていても、リアルなショップなら行われて当然の説明が行われないという問題もあります。困るのはユーザーであり、尻拭いをするのは販売したわけでもないショップです。
まあそういった問題もあってCyclingEXでは今まで、とくに車体に関しては通販を推奨するようなスタンスはとってきませんでした。はじめてのスポーツ自転車購入に際して、一般的な通販はまったく適していません(だからCyclingEXに完成車のアフィリエイトリンクはありません)。用品に関しては「わかる人は使えばよいのでは」というスタンスですが。
ともかく、日本の問屋さんやショップが文句のひとつやふたつ言いたくなるお気持ちは、わかるつもりです。
しかし、これらはすべて「通販を利用するユーザー」が悪いのでしょうか?
●通販はこれからも進化し、多様化する
なんでもかんでも通販で購入するのが正しい——というわけではありません。通信販売では購入できないもの、そして通信販売ではぜったいに得られない購入体験というものが、どんな分野にもあります。
一方で通信販売、もしくは通信販売を絡めた新たな購入体験のデザインは、否が応でも進んでいきます。
例えば、通販とリアル店舗の合わせ技も出てきています。
スペシャライズド・ジャパンの「クリック&コレクト」は、オンラインストアで注文をして、リアル店舗で納車説明を行うというスタイルです。
実際に購入に至るまでに電話によるコンサルが入ったりしますので、気軽さという点では疑問もありますが、オンラインで好きなときに注文ができつつ、近くのスペシャライズド正規取扱いショップでサービスが受けられるのは特徴的です。
また、通販とは異なるのですが、こんな事例もありました。
ブリヂストンサイクルは、今年の夏に発表したユニバーサルデザインの電動アシスト自転車「フロンティア ラクット」シリーズを、首都圏に限りかつ期間限定ではあるものの、同社のスタッフが購入検討者の自宅などに直接試乗車を持っていくという「無料出張試乗キャンペーン」を行っていました(2018年10月で終了)。
スポーツ車でも、こういったサービスを行うところが出てくるかもしれません。
また「ZOZOスーツ」などを持ち出すまでもなく、将来は「適切なサイズを選ぶ」という作業がオンラインでできるようになるかもしれません。
まとまりのない話になってしまいましたが、もはやロードバイクをはじめとするスポーツサイクルを楽しむ上で、通販を完全に否定することは困難です。むしろ、オムニチャネル化とそれに合わせた購入体験の演出が、進むことになるでしょう。もしくは、他の分野でおきているそのような波から完全に取り残された斜陽業界になるかの、どちらかです。
(Gen SUGAI)
須貝 弦(すがい・げん):1975年東京都新宿区生まれ、川崎市麻生区在住。雑誌原稿の編集・取材・執筆の他、企業Webサイトやオフィシャルブログの制作にも携わる。自転車と小田急ロマンスカーが好き。初めてのスポーツ自転車は1986年あたりのアラヤ・マディフォックス。2001年頃にGTのクロスバイクで数年ぶりにスポーツ自転車に復帰。現在のメインの愛車はアルミのロードバイク「TREK Domane AL3 DISC」。