スポーツサイクルを買おうと思っているビギナーが、ショップやすでに自転車に乗っている人に、どんな自転車を買えば良いか相談をすると、往々にして「クロスバイク」という返事が返ってくるかと思います。Web上でいろいろ検索してみても、とくに日常的にスポーツサイクルを使いたいということであれば「どうやらクロスバイクというものが良いらしい」という答えに行き着くことでしょう。
クロスバイクとは、マウンテンバイク(MTB)のタフさとロードバイクの速さの中間を狙ったジャンルであり、趣味と実用を兼ねてスポーツサイクルを始めるには、確かにうってつけの存在です。
しかし実際に自転車メーカーのWebサイトや雑誌を見ていると「クロスバイク」にも実にいろいろあって、何がどう違うのか、何を選んだら良いのかわからなくなってしまいます。自転車なんて2万円で買えると思っていた人が「クロスバイクを買う」となると、一大決心が必要なはずで、この「わからなさ」ゆえに不安な気持ちになってしまうこともあるでしょう。
というわけで、恒例になりつつある、この企画。これからクロスバイクを購入したいと考えている方のために、クロスバイクの「性格」の見分け方、選び方を紹介したいと思います。
<2015年9月4日追記>この記事の2016年モデル版ができました。詳しくは下記リンクからご覧ください。
関連記事: あなたにおすすめなのはどのタイプ?2016年モデル版・初心者のためのクロスバイクの見分け方・選び方 | CyclingEX
■そもそもクロスバイクって何だ
本題に入る前に、大まかに自転車のジャンルをおさらいしておきましょう。
<シティサイクル>
シティサイクルやママチャリと呼ばれるジャンルの自転車は、日常生活の中で使われる自転車です。とくに日本においては、自転車が歩道を走行するのが当たり前になってしまっていることもあり、低速度でのんびり走るのが得意?分野。買い物等の使い勝手は最高です。
<MTB(マウンテンバイク)>
その呼び名の通り野山を走り回るための自転車です。MTBにもいろいろなものがあるのですが、基本的には太いブロックタイヤを履いています。
<ロードバイク>
スポーツサイクルの花形はやっぱりロードバイクですね。舗装路を速く走るための自転車です。とても細いタイヤやドロップハンドルが特徴です。ホイールは「700C」というサイズがほとんど。
<フォールディングバイク(折りたたみ自転車)>
クルマのトランクに積んだり、電車に載せたりするのに便利なフォールディングバイク(折りたたみ自転車)。折りたたんだ際のサイズを小さくするために、20インチ等の小さな車輪を採用しているものがほとんどです。
<クロスバイク>
MTBとロードバイクのメリットを併せ持った自転車です。MTBのようなフレームと、ロードバイクと同じ「700C」サイズのホイール、そしてMTBとロードバイクの中間の太さのタイヤを装備するのが標準形ではありますが、ユーザー層の広がりや楽しみ方の多様化に応じて、クロスバイクにもさまざまな種類が出てきています(それを解説するのが、この記事の本題です)。
■クロスバイクの種類
というわけで、本題です。
クロスバイクも、その構造によっていくつかに分類することができます。本稿では便宜上、下記のように分類しました(決まった呼び方があるわけではありません)。
・前サス無しのクロスバイク
・スピード系クロスバイク
・前サス付きのクロスバイク
この3つについて、もうちょっと詳しく紹介します。
■安定感のある定番タイプ「前サス無しのクロスバイク」
かつてクロスバイクと言えばフロントサスペンション付きが当たり前の時代がありました。しかし、フロントサスペンションは乗り心地こそ良いものの、重量はかさみます。そこで、サスペンションではない「リジッドフォーク」として軽快感を重視するものが増えてきました。今ではむしろ、このスタイルが「いかにも」という感じのクロスバイクと言えるでしょう。
代表格として下記の製品を挙げておきます(車名をクリックすると紹介記事にジャンプします)。
・RITEWAY SHEPHERD CITY(上写真)→2016年モデルはこちら(2015/7/13)
・TREK 7.4FX→2016年モデルはこちら(2015/8/18)
・SPECIALIZED SIRRUS
・KONA DEW(メーカーサイト)
■いつかはロード……の思いを胸に「スピード系クロスバイク」
クロスバイクはMTBとロードバイクの良いとこどりだと言われますが、フレームがMTBをベースとしたものであることが多く、ロードバイクに比べればどうしても軽快感に劣ります。そこで「クロスバイクといえども、ロードバイクに近い軽快感を!」ということで、フレームを軽量化、ホイールベースを短縮して旋回性能を向上、そして700×28Cなど細めのタイヤを装備したものが出てきました。出始めは「スピードバイク」などと呼ばれていましたが、ここでは「スピード系クロスバイク」と分類します。
代表格として下記の製品を挙げておきます(車名をクリックすると紹介記事にジャンプします)。
・GIANT ESCAPE RX3(上写真)→完全リニューアルした2016年モデルが登場!
・GIANT ESCAPE R3→もう2016年モデル出た!(2015/6/19)
・FELT V110f
・GIOS MISTRAL
■未舗装路も走るアナタに「前サス付きのクロスバイク」
比較的安価だけど、タフなフレーム、700Cというロードバイクと同じ径のホイール、だけど32C〜38Cとタイヤは太め。もっとも安価なクラスはサスペンションのないフロントフォーク、中級グレード以上はサスペンションのついたフォーク……といった構成です。「比較的安価」と書きましたが、このスタイルで10万円を超えるような「高級車」も、ないわけではないです。都会の人間、しかもクロスバイクからロードバイクへステップアップした人は「フロントサスペンションなんかいらない」と言いますが、実際のところ好みは人それぞれですよね。
それはさておき、代表格として下記の製品を挙げておきます。
・GT TRANSEO 4.0(メーカーサイト)
■わかりやすい違いは「タイヤの太さ」
さて、メーカーのカタログを眺めて、クロスバイクのキャラクターをどのように見分けるか。フロントサスペンションの有無は、写真で見分けがつきます。それ以外でわかりやすいのは、タイヤの太さでしょう。
クロスバイクで一般的な「700C」という径のタイヤの場合、タイヤのサイズ表記は「700×28C」や「700×32C」などとなっています。この「28」や「32」というのが、タイヤの幅です。数字が大きいほど、太いタイヤです。
シティサイクルの感覚からすると、32C〜38Cあたりのタイヤだと違和感がないはずです。28Cや25Cなどになってくると「こんなに細くてパンクしたり溝にはまったりしないかな?」と不安を抱く人もいます。
そして、ロードバイク的な性能を目指したスピード系のクロスバイクなら、700×28Cのタイヤを標準装備するのが定番です。一方、安定感を重視するほど、タイヤは32C→35C→38Cと、太くなっていきます。
■「ジオメトリー」もチェックしてみる
ちゃんとしたスポーツサイクルメーカーのカタログには、ジオメトリー(ディメンション)図が掲載されています。「フレームのここからここまでが○mm」といったことを説明している図です。
上図は大手メーカー「ジャイアント」の図および表です。各部の名称がわかりやすいので、掲載しました。この下に表組で「Aが○○○mm、Bが○○○mm」といったようなことを載せるわけです。
具体的に、その人にとってどのサイズが最適かということは、体格や柔軟性、用途等によって変わってしまいますので、自転車店でご相談いただくとして、とりあえず「チェーンステー長(もしくはリアセンター)」「ホイールベース」をチェックしてみてください。乱暴に言えば、リアセンターとホイールベースが長いほうが、直進安定性に優れた自転車になります。逆に短ければ、軽快感を狙った設計です。
もうひとつ、「ヘッドチューブ」にも注目。ヘッドチューブが長いほど、ハンドルが高めにセットしやすくなります。ハンドルが高いほうが、ビギナーの人はとっつきやすくなるでしょう。
※ちなみに……
タイヤが700×28C以下で、チェーンステー長もリアセンターも他のクロスバイクと比べてとても短い……そんな自転車は、クロスバイクではなく「フラットバーロードバイク」かもしれません。そのメーカー/ブランドのカタログを眺めて、同じフレームのカタチでドロップハンドルのモノがあれば、その可能性が高くなります。
フラットバーロードバイクは、ブレーキもロードバイク用のものが付いています。クロスバイクには、だいたい「Vブレーキ」と呼ばれるものか、ディスクブレーキが付いています(今後、ディスクブレーキのフラットバーロードバイクも出てくでしょう。そうなると、見分け方はタイヤとジオメトリーくらいになります)。
■ちょっと気にしておきたい「リアエンド幅」
リアエンド幅って、なんでしょう。メーカーによっては「OLD」なんて呼んだりもします。これは大雑把に言えば、フレームの、リアのホイールがはまっている部分の「幅」です。そんなところの幅、自転車なんてどれも同じなんじゃないの?と思われるかもしれませんが、実は違います。
ロードバイクならリアのエンド幅は130mm、MTBなら135mmや142mmなどが多数派です。ロードバイクでもディスクブレーキのものは、135mmが採用されるようになってきました。ではクロスバイクはどうかというと、130mmものと135mmのものが多くなっています。
先ほどちょっと出てきた「700C」という径の車輪で、リアのエンド幅が130mmのクロスバイクですと、ロードバイク用として販売されているホイールに交換することが可能です。一方、径が700Cでエンド幅135mmのホイールは完成品としてはあまり販売されておらず、ホイールを交換するというカスタムはやりにくくなります。エンド幅はカタログに書いていないことが多いので、気になる場合はショップで聞いてみてください。
■まとめ
というわけで、クロスバイクについて解説してみました。乱暴にまとめますと、シティサイクルからの乗り換え、そしてシティサイクルの延長線上で、ゆったり乗りたいのならば、ホイールベースが長めでタイヤの太いモデルがおすすめです。スポーティで軽快感のあるクロスバイクが欲しいなら、タイヤが細めのものがおすすめです。そして「いつかはロードバイクがほしい……」という気持ちがあったり、「ゆくゆくはより速く、軽くカスタムしてみたい……」と考えている人は、リアのエンド幅が130mmのものを選ぶと良いのではないかと思います。
もちろん、Web上で数字を見ているだけでは、あなたにとって最適な自転車を選ぶことはできません。「自転車ってどれも似たように見えて、結構違うんだ」ということをアタマに入れつつ、やはり自転車専門店で相談するのがいちばんです。たくさんの人と自転車を見てきたお店なら、最適なフィッティングを施してくれるでしょう。
関連記事:これからクロスバイクが欲しいという人のために、GIANT ESCAPE R/AIR/RX、そしてGRAVIERの違いをおさらいしてみる(2015)
関連記事:通勤スペシャルを探せ
<2015年9月4日追記>この記事の2016年モデル版ができました。詳しくは下記リンクからご覧ください。
関連記事: あなたにおすすめなのはどのタイプ?2016年モデル版・初心者のためのクロスバイクの見分け方・選び方 | CyclingEX
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(Gen SUGAI)
須貝 弦(すがい・げん):1975年東京都新宿区生まれ、川崎市麻生区在住。雑誌原稿の編集・取材・執筆の他、企業Webサイトやオフィシャルブログの制作にも携わる。自転車と小田急ロマンスカーが好き。初めてのスポーツ自転車は1986年あたりのアラヤ・マディフォックス。2001年頃にGTのクロスバイクで数年ぶりにスポーツ自転車に復帰。現在のメインの愛車はアルミのロードバイク「TREK Domane AL3 DISC」。
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