自転車通勤をきっかけに都市交通としての自転車の可能性に着目し、折りたたみ自転車「iruka」を開発中の小林正樹さんが、この夏、ヨーロッパ旅行の際に現地の自転車インフラを取材されました。そして、小林さんのブログに掲載された記事をCyclingEXにも転載させていただくことになりました。今回はその4回目、最終回となります。小林さん、ありがとうございます。なお、小林さんとirukaについては、こちらの記事で紹介しています。(須貝)
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ヨーロッパの自転車インフラ紹介シリーズ第三回、今回は鉄道編をお送りします。
まず最初にお断り。タイトルには「世界標準」と銘打ってはおりますが、以前紹介した自転車レーンや小規模分散型駐輪場とは異なり、今回紹介する事例を日本の都市部でそのまま導入することは得策ではないと思っています。
ただ、自転車と他の公共交通機関の組合せはこれからの日本においても重要なテーマですので、日本なりのアレンジを考える上でのヒントとして読んでいただければ幸いです。
まずはインスブルック駅構内の写真です。
ホームにつながるコンコースに、自転車を引く男女の姿が。
日本では鉄道に自転車を持ち込む場合、原則として分解するか折りたたむかした上で袋に入れなければなりませんが、ヨーロッパでは自転車を「そのまま」持ち込むことが可能です(もちろん路線や車両などによりケースバイケースですが)。
乗客は駅まで自転車に乗り付けて、そのまま自転車を引いて、ホームまで上がってきます。
では自転車を車両にどう載せるのか?
オーストリアのインスブルックから南ドイツに行くときに乗った地域快速列車Regional Express(通称REX)の車内です。車両の半分ほどの座席が折りたたみ式になっていて、自転車とベビーカー用のスペースとして割り当てられています。
座席には固定用ベルトがついていて、自転車やベビーカーが転がっていかないようつないでおくことができます。
もうひとつ、こちらはインスブルックと北イタリア間で乗った都市間特急Euro City(通称EC)。各車両の前端と後端に電話ボックスほどのスペースと引掛けフックがあり、自転車を1台ずつ縦置きにできる他、ベビーカーやスーツケースの置き場として利用されています。
もう一枚、こちらは鉄道ではないですが、ハルシュタットという湖畔の村から対岸の鉄道駅に行くための渡し船の乗船シーンです。
自転車を引いたまま渡し船に乗って、降りて、自転車を引いたまま電車に乗るわけです。
いやー、いいですねー。
……と言いつつ、自転車を引いて駅の構内を移動することも、車両に自転車を折りたたまずに持ち込むことも、冒頭に書いたとおり「日本の大都市では、特に東京では厳しいなー」と僕は思いました。
千葉外房のいすみ鉄道など地方路線を中心に「サイクルトレイン」と銘打って自転車をそのまま持ち込める列車はあり、可能な限り増えてほしいとは思いますが、大都市では得策ではないかな、と。
世界の鉄道駅の乗降客数ランキングのトップテンを日本の駅が独占しているという説もあるとおり、東京駅や新宿駅など日本の大都市の主要駅の構内と車内の混雑ぶりは、ヨーロッパ諸都市とは彼我の差がありますからね。
ということで僕は、とりあえず日本の鉄道における自転車の扱いは今のままでよいと思います。都市部の駅構内および車内への持ち込みは、原則として分解するか折りたたむかすると。
ただ、その上で、日本人および日本の鉄道会社は「列車に何かを持ち込むこと」に関して、あまりにも不寛容に過ぎると思います。
自転車に限らず、最近議論になっているベビーカー然り、車椅子然り、ペット然り(ヨーロッパでは電車でもバスでもベビーカーはそのまま乗ってくることがほとんどですし、犬もケージなどに入れずそのまま電車に乗ってきます)。
まずハード的な問題として、そもそも列車に「何かを持ち込むスペース」が少なすぎるのではないでしょうか。
僕が知るかぎり、荷物置きスペースが十分に確保されているのはスカイライナーや成田エクスプレスなど空港に乗り入れる路線くらいで、例えば山手線は車椅子スペースが申し訳程度に前後二車両にあるだけだし、天下の新幹線も自転車どころかスーツケースひとつ置くにも苦労しますよね。
そこで、主要路線にはあまねく上の三枚目の写真のような荷物優先車両(または荷物専用車両)か、五枚目の写真のように各車両に荷物用スペースを設けるかしてはどうでしょうか。 以前山手線にあったような全席折りたたみシート車両を、ベビーカー&荷物優先車両として復活させるとか。
あとはハード以上に重要なのが、やはり「空気」ですよねえ……。「通勤ラッシュ時にはベビーカー載せるな」のような意見が一定割合で根強くあるようですが、僕はもうちょっと寛容でもいいんじゃないの?と思います。それに、ベビーカーのママに文句言ったり規制したりするより、時間差通勤とか在宅勤務とか、それこそ自転車通勤とか、ラッシュを緩和する議論に頭を使った方が、ずっと本質的かつ建設的だと思いませんか?
自転車の持ち込みも含め、ヨーロッパの公共交通機関におけるこの種の「寛容さ」というのは、自転車乗りの立場と関係なく、見習うべき点が多であると思います。
あ、日本の鉄道の定時運行は間違いなく世界一で、イタリアなんかには爪の垢を煎じて飲んでいただきたいですw
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irukaは折りたたんだ状態で補助輪などなしで転がせる機能と、新幹線などの座席で両足の間に置ける折りたたみ形状(窮屈ですが)を実現すべく進めております。
(写真と文:小林正樹)
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