自転車通勤をきっかけに都市交通としての自転車の可能性に着目し、折りたたみ自転車「iruka」を開発中の小林正樹さんが、この夏、ヨーロッパ旅行の際に現地の自転車インフラを取材されました。そして、小林さんのブログに掲載された記事をCyclingEXにも転載させていただくことになりました。小林さん、ありがとうございます。なお、小林さんとirukaについては、こちらの記事で紹介しています。(須貝)
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小林正樹です。この夏、2週間ほどヨーロッパに旅行に行ってました。オーストリア西部のインスブルックという街にホテルをとって根城とし、そこからハブ&スポーク式にオーストリア国内とドイツイタリアに足を伸ばしてきました。
オーストリアは延べ35ヶ国目、ヨーロッパでは11ヶ国目の旅先です。
この旅の中で、自転車インフラに関しても「さすがヨーロッパ」と感じる光景をいくつも目にしたので、今日から何回かに分けて紹介していきたいと思います。
インスブルックは「イン川の橋」という意味で、文字どおりイン川という山あいを流れる川沿いに拓けた街です。北の峠(下の写真では手前)を越えるとドイツ、南の峠(下の写真では奥)を越えるとイタリアです。人口は12万人ほど。
ヨーロッパの多くの歴史的な街と同じように、旧市街がしっかり保存されています。
んで、旧市街エリアを出ると、新市街の車道にはばっちり自転車レーンが。
車道の右端(左側通行の日本でいえば車道左端)を、白いペンキで区分しただけの、一番シンプルな形です。
自転車レーンを作るなら、柵などで車道から分離されたレーンを作るより、車道端をペンキで塗るだけの方がよい、と僕は常々思っています。柵などで分離された自転車レーンは一見安全で良さそうですが、初期コストが高い上に、トラックの荷降ろし、タクシーやバスの乗降、緊急車両対応など調整すべき運用上の課題が多いため、往々にしていつまでたっても「社会実験」の域を脱せず、街の全域に広がりません。塗装レーンは、逆にコストが安く、柔軟に運用できるため、やると決めたら一気呵成に広げることが比較的容易です。がっちり囲われたレーンが数百メートルだけあるよりも、ペンキ塗りのレーンが街全体を網羅している方が、圧倒的に、もう圧倒的に有益です。
下の写真はインスブルック駅前の交差点ですが、自転車レーンが左に曲がっていって、直行する道の自転車レーンにつながっているのがわかりますか(わかりにくいですね……)。日本でいえば右折のシチュエーションです。
日本では自転車は二段階右折が義務付けられていますが、こちらでは自転車もクルマと同じ径路で左折していくよう設計されています。自転車が完全にクルマ扱いなわけですね。直進してくるクルマとの事故の心配(特に夜間など視認性が悪いとき)はあるでしょうが、導線としてはこちらの方が論理的かつ合理的でしょう。
自転車専用レーンを確保するだけの幅がない道路では、ところどころバスとの共用レーンになっている箇所もあります。
こんな感じでございます。
先日「歩行者が最も怖い思いをする自転車の行為は『歩道を猛スピードで走る』ことである」というアンケート調査結果を目にしました。日本でも最近ようやく車道を走る自転車が増えてはきましたが、それでもまだ歩道を走る自転車が多いということですね。
その点、インスブルックでは(少なくとも僕が見るかぎり)歩道を爆走する自転車はいませんでした。もちろん交通教育などの成果もあるでしょうが、何と言っても、上述のように「自転車レーンがある=自転車が走るためのスペースが明示され、確保されている」ということが大きな要因のひとつでしょう。
「自転車に優しい街づくりを」という主張は、ともすると自転車乗りのエゴのようにも捉えられがちです。しかし、自転車レーンが整備された街をつくることは、歩行者が歩道で自転車に脅かされることがない、「歩行者に優しい街づくり」でもあるということです。
人口の4人にひとりが高齢者という超高齢社会に突入した日本において、高齢者でも常に安心して歩ける街づくりを進めることは必須のはず。そのためにも、自転車レーン整備は極めて有効な政策であることを再認識しました。
インスブルックは、別に自転車先進都市でも何でもありません。世界的には自転車レーン整備は特別な都市交通政策ではなく、むしろ定番中の定番です。逆に言えば、行政のやる気さえあれば、どこの国のどこの街でも、できることなのです。
ニッポンも、トーキョーも、やりましょうよ。
なんなら僕もペンキ塗りやりますよ!いやマジで。
次回は駐輪場について書く予定です。
(小林正樹)
TOKYOバイクコンシャスプロジェクトの
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